新潟地方裁判所 昭和45年(モ)724号 判決 1978年5月12日
債権者
民放労連新潟放送労働組合
右代表者
梨本智宏
右訴訟代理人
中村洋二郎
外四名
債務者
株式会社新潟放送
右代表者
清水誠一
右訴訟代理人
和田良一
外二名
主文
債権者より債務者に対する当庁昭和四五年(ヨ)第二一四号組合事務所立入禁止仮処分事件について、昭和四五年九月一六日に当裁判所がなした仮処分決定はこれを認可する。
訴訟費用は債務者の負担とする。
事実
<前略>
1 当事者
債務者はテレビ・ラジオの放送等を業とする株式会社であり、債権者は債務者の従業員をもつて組織する労働組合で日本民間放送労働組合連合会(民放労連)並び新潟県労働組合評議会(県評)及び新潟地区労働組合協議会(地区労)に加盟しているものである。<後略>
理由
一申請の原因第1項(当事者)は当事者間に争いがない。
二同第2項(被保全権利)のうち、債権者が債務者に対し、本件契約書第五条に基づき本件事務室を一定の緊急事態の発生を除き債務者の立入巡視なくして使用できる権利を有するか否かの点についてまず検討する。
1 本件契約書第五条には「この建物の保全、衛生、防犯、防火、救護、その他緊急止むを得ざるときは甲(債務者)の命令に於て非組合員は貸借物件(本件事務室)内に立入り又はその内外を巡視することができる。」と規定されていることは当事者間に争いがない。
2 ところで、本件仮処分の争点は、右第五条の解釈をめぐつて組合事務室の貸与者である債務者が施設管理権に基づき如何なる場合に組合事務室に立入巡視できるかという点にあるので以下順次考察する。
(一) 債務者施設の巡回巡視制度の経緯
<証拠>によれば、次の事実が疎明される。
(1) 男子社員による当直制
債務者においては、昭和三七年三月まで男子職員による当直制が存在し、夜間の来客の応待、通信、文書の受理等や施設の維持管理にあたつていた。
(2) 守衛による巡視
昭和三七年頃になると、新社屋の建設に伴つて別館別棟がそれぞれ増築され、施設の規模が拡大すると共に機械類、放送用具類も増加してきたし、債務者の業務である放送はその性質上電波映像の発信を一刻も欠かせないものである等の事情から、昭和三七年三月に専門職である守衛を採用して守衛制度を発足させ、四名の守衛が交替勤務をすることで、外部者との応待や文書の授受等を含め債務者施設の巡回巡視を義務づけるに至つた。なお守衛による巡視制度が発足した際、債権者と債務者との間で債権者の組合事務室の巡視をどうするかにつき話合は一切なく、また債務者から債権者に対し、今後守衛が組合事務室を巡視する旨の通告等もなかつた。
守衛は、各部屋の鍵を保管して鍵の貸出し、受領に応じていたし(但し、組合事務室の鍵は組合員が常時持ち守衛に返還することはなかつたが、守衛室には組合事務室のスペアの鍵が保管されていた。)、巡回巡視について、昼間は適宜一回、夜間は二三時、一時、三時の三回行い、その際は各部屋に立入り、火の元、電燈、戸締り、水道栓、雨の吹込み、書類放置の有無等をよく点検し、これらの安全、保安の処置をとらねばならないし、右巡視結果を守衛日誌に記入することになつていた。
(3) ガードマンによる巡視
右四名の守衛のうち一名が退職したのを機会に、債務者は、昭和四二年一一月いわゆるピートパトロールという常駐せずに決まつた時刻にガードマンが派遣されて夜間巡回するという警備方法を採用し日本警備保障上信越株式会社との間でその旨の契約を締結した。その後昭和四三年四月頃からは常駐警備による方法に切替え、平日は午後六時から午前六時まで常駐し、休・祭日には、午前七時より午後六時までガードマンが常駐することとなつた。そして、右ガードマンの警備対象物件は、右契約によれば債務者の全施設(但し、実際には後述のとおり債権者の組合事務室は除かれた)に及び、その責任について、その内部巡回(閉社後可及的速やかに社屋内全域にわたり検索巡回を行い扉を閉鎖し、不法残留者の早期発見に努めると共に火災発生危機の防止及び窓、扉等の施錠の確認を行う等)、及び外部巡回(建物周辺の徘徊者、不審者、潜状者の発見、処置、火災の危険防止、早期発見等)に関する責任はガードマンがこれを負担し、出入管理、受付管理及び鍵保管に関する責任については守衛を補佐する責任にあつた。そしてガードマンは右巡回目的を達成するため、一九時、二二時、一時、五時の四回に亘つて巡視を行つており、右巡視の事実を明確にするために巡回場所たる各施設に時刻キーを備え付けて記録していた。ガードマン導入後守衛の巡視業務は、ガードマンの常駐していない昼間二回、夜一回適宜の時間を選んで巡回することになつたが、夜間の巡視は大体午後九時頃にガードマンが実際に巡視しない場所を巡回していた。
(4) 債務者はかつて新潟大火、豪雪、地震などの大災害を経験しているが、ともすれば災害ずれとも言える安易感に陥りやすく、むしろ非常事態に備える対策は他社に遅れをとつているのが実情であつたと考え、昭和四五年六月一五日非常事態発生時における社内体制を確立し、有事に備えようと災害対策要綱を作成し、これを社報によつて社員に告示した。これに関連した防火管理規程の新設に伴い、火元責任者を拡充強化し、自衛消防隊の編成にとりかかつていた。しかし、右災害対策要綱に関連して本件事務室に立入巡視することについて債権者債務者の間で特別な話合はなされていない。
(二) 債務者の組合事務室の巡視巡回について。
(1) 債権者の組合事務室貸与の経過。
<証拠>によれば、次の事実が疎明される。
債務者は債権者の組合事務室として(イ)昭和三六年三月一日に債務者所有の社屋たる新潟市川岸町三丁目一八番地鉄骨ブロツク造りスレート葺二階建一棟建坪六六坪のうち事務室六坪を、(ロ)新潟地震後の昭和四〇年三月一日に同じく同所にある仮設ケーピーハウス二階建一棟建坪37.5坪のうち事務室三坪を、(ハ)昭和四一年九月三〇日に同所にある鉄骨コンクリート造り三階建のうち事務室三坪を、(ニ)昭和四四年九月三〇日に本件事務室をそれぞれ代替のうえ各無償で貸与してきた。右貸与に際してはその都度本件契約書とほぼ同文の契約書(争点となつている第五条については全く同文)が作成されてきたものである。
(2) 組合事務室貸借契約第五条訂正の経緯。
<証拠>によれば、債務者が昭和三六年三月一日債権者に組合事務室を貸与するに際し、債務者が示した組合事務室貸借契約書第五条の原案は、「この建物の保全、衛生、防犯、防火、救護、その他必要あるときは、甲(債務者)の命令に於て非組合員は随時貸借物件内に立入り、又はその内外を巡視することができる。」とあつたが、債権者は、いつでも防火、防犯名目で組合事務室に入られたのでは、債権者の独立性自立性が保てないので、緊急止むを得ざるとき以外の立入は困るとして、「その他必要あるときは」を「その他緊急止むを得ざるときは」に、また「随時立入り」の「随時」を削除するよう申入れ、交渉の結果、債務者も債権者の申入れのとおり右第五条を訂正して契約が締結されたこと、債務者と債権者間にはその後四回にわたつて契約が更新されたが、右第五条は同一条文のまま引継がれてきたものであつて、右更新に際し、双方から格別条文の訂正とか運用面における変更等の申入れもなかつたこと、
以上の事実が疎明され、<証拠判断省略>
(3) 債権者の組合事務室巡視の実情
<証拠>によれば次の事実が疎明される。
昭和三七年三月債務者が守衛による巡視制度を採用した際、債権者と債務者との間で債権者組合事務室の巡視をどうするかにつき話合は一切なく、また債務者から債権者に対し、今後守衛が同事務室を立入巡視する旨の通告もなかつた。昭和四三年暮頃債務者は前記ガードマンによる巡視の実効性を確保するため各施設に時刻キーをとりつけ、ガードマンが巡回したことの記録を留めようとした際、債権者から組合事務室に対する時刻キーの設置は困るとの異議があつて組合事務室への立入を拒否されたが、債務者もこれを特に問題とすることなく了承して債務者施設のうち右組合事務室のみ時刻キーを設置しなかつた。そのためガードマンによる巡回巡視は、債務者と警備保障会社との契約によれば、債務者の全施設に及ぶことになつていたが、右の事情により右組合事務室だけはガードマンによる巡回巡視は行われなかつた。
債権者の組合員は、春斗・秋斗・年末斗争の各斗争時や定期大会の準備等でニユースや資料を多数発行する多忙の時期には、組合事務室を午後一〇時頃まで、場合によつては午後一二時頃まで使用していたが、組合員が組合事務室に在室している時倉田その他の守衛から巡視のため組合事務室に立入つてきたことは、組合事務室を貸与した昭和三七年以降本件立入行為があるまで一度もなかつた。昭和四二年から本件立入行為があつた昭和四五年八月まで防火責任者に梨本智宏執行委員長が債務者から指定されていたが、同人は債務者から防火、防犯上特に注意を受けたことはなかつた。本件立入行為当時債務者の守衛は倉田守衛ほか、熊倉、小畑両守衛がいたが、右梨本が本件立入行為の日の翌日熊倉守衛に、翌々日小畑守衛にそれぞれこれまで巡視のため組合事務室に立入つたことがあるか尋ねたところ、いずれも立入つたことはないと答えていた。なお倉田守衛は昭和四三年五月頃の午前一時頃組合事務室が深夜電気が消されておらず、施錠もされていなかつたため、泊り勤務の酒井組合員にこれを指摘したことがある。<証拠判断略>
ところで前記2(一)の疎明事実によれば、守衛はガードマンによる巡視導入前は昼間一回(適宜の時間)、夜間三回(二三時、一時、三時)、右導入後は昼間二回、夜間一回(いずれも適宜の時間だが夜間は大体二一時頃)に巡回巡視を行つていたのであるが、仮に右巡視の際債権者の組合事務所に立入り巡視をしていたのであれば、昭和三六年債権者が組合事務室を借り受けてから本件立入行為までの約八年間に少なくとも何度か債権者の組合員が在室している時に、守衛が立入り巡視したことがあつてもよいはずなのに右疎明事実によればそのようなことはなかつたと言うのであるから、また時刻キー取付けの拒否等の右疎明事実に照らし、守衛は巡視する際組合事務室を巡視の対象からはずしていたと解するのが相当である。右疎明事実のうち、倉田守衛が酒井組合員に防火防犯上の注意をしたのは、同守衛が組合事務室付近を巡回した時たまたま同事務室の不用心さに気付き、酒井組合員にこれを指摘したと解すべきであつて、債権者の組合事務室立入行為が巡回巡視の度に行われていたと解すべきでない。
(4) 本件事務室の構造と防火
<証拠>によれば、次の事実が疎明される。
本件事務室は、債務者建物の旧館の南側やや中央辺にあつて、社内に通ずる通路はなく、周囲はコンクリートブロツク面の上にセメント塗りした建物で、仮に本件事務室で火災が発生しても債務者が使用している建物の方へ延焼し難い構造になつている。債務者の各施設にとりつけられている火災報知器は、本件事務室にはとりつけられていない。
(三) BSN労組の組合事務室巡視の実情
<証拠>によれば、次の事実が疎明される。
BSN労組は結成と同時に組合事務室貸与の申入れをなし、債務者は昭和四二年三月二五日債務者施設の一部屋を貸与したが、契約内容は債権者のそれと全く同様であつた。その後三回にわたつて右契約の更新が行われてきたが、債務者のBSN労組組合事務室への立入巡視に関する規定は、債権者のそれと全く同一であつたところ、当初は守衛がBSN労組組合事務室を巡視していたが、その後右BSN労組事務室には、時刻キーを設置し、ガードマンが毎日定期的に同事務室を巡視している。
3(一) 本件契約書第五条の解釈
使用者は労働組合に対し、当然に組合事務室を貸与すべき義務を負うものではないが、一旦組合事務室が貸与された以上、組合は組合活動のため社会観念上通常必要と認められる範囲内で組合事務室を自由かつ独占排他的に使用し、自らこれを管理する権限を有するものであるが、使用者といえども正当な理由なくして組合に無断で組合事務室に立入ることはできず、かような立入は組合の貸借権ないし占有権を侵害する違法行為であるに止まらず、組合の運営に対する介入として不当労働行為(労働組合法第七条第三号)に該当することがあると言わなければならない。もとより使用者は組合事務室を貸与する場合、貸与する場所や範囲は勿論、その使用方法についても合理的理由の存在する限り、施設の維持管理の必要上種々の条件や制限を求めて貸借契約の内容とすることができることも当然のことである。ただ、組合事務室が労働組合にとつて組合活動の中心(心臓部分)であり、使用者に対して秘密を保つべき書類、情報等が保管されている場所であることの特殊性を前提として組合事務室貸借契約が締結されていることに鑑み、組合事務室使用に関する条件や制限規定の解釈にあたつては、労働組合法の趣旨に従い労働組合の自主性や独立性を侵さないように解釈するのが契約当事者の合理的意思に合致するものと言うべきである。
(二) ところで、本件契約書第五条は、前記疎明事実、とりわけ同条訂正の経緯、債権者の組合事務室の立入巡視の実情、及び同事務室の構造並びに労働組合の自主独立性確保の要請等をしんしやくすれば、同条の規定の文言に忠実に「建物の保全、衛生、防犯、犯火、救護、その他の事由により緊急止むを得ざるときは、債務者の命令に於て非組合員は組合事務室に立入ることができる。」趣旨と解釈すべきである。
債務者は、「緊急止むを得ざる」との字句が右列記された事項の冒頭に記載されておらず、「その他緊急止むを得ざるとき」と規定されている体裁をとらえて、建物の保全、衛生、防犯、犯火、救護の目的のためなら何時でも適宜の時間に組合事務室に立入れ、その他の目的の場合だけ緊急止むを得ざるときしか立入れないと解釈すべきだと主張する。
しかしながら、保全、衛生、防火、防犯、救護の各場合とその他(例えば防水、本件事務室は信濃川の川岸にある。)の場合とで何故立入巡視権限が格段に違つてくるのか明らかでなく、むしろ「保全、衛生、防火、防犯、救護」は立入巡視すべき目的が明らかな場合の例示にすぎなく、その例示に準ずるものを全部規定することは困難なので「その他」と包括したものと解すべきで、「緊急止むを得ざるとき」という字句を「保全、衛生、防火、防犯、救護」の冒頭にもつてこようが、その最後にもつてきて締めくくろうが、本件契約書の場合はその内容は変らないと言うべきである。このことは債務者が本件契約書第五条の原案として当初提案した「建物の保全、衛生、防火、防犯、救護、その他必要あるときは債務者の命令において非組合員は随時組合事務室に立入り、又はその内外を巡視することができる。」の規定を、債務者主張の如く解釈するならば、「必要あるとき」の字句が右規定の冒頭にないから、「建物の保全、衛生、防火、防犯、救護」の目的の場合はその必要がない時でも立入巡視でき、「その他」の場合だけが「必要あるとき」立入れると解釈することになるが、その解釈の失当なることは言うまでもない。
さらに債務者は「建物の保全、衛生、防火、防犯、救護、その他の事由」で緊急止むを得ないときに立入れるのは当然であるから、特別契約内容に入れておく意味がないと主張する。
しかし、労使対立の厳しい中で余計な紛争を起さないためにも組合事務室を債務者が立入巡視するためのルールを定めておくことは必ずしも意味のないこととは言えない。
なお前記2(三)のとおり、本件契約書第五条と同じ条項が債務者とBSN労組との間の組合事務室貸借契約書中にも存在し、債務者は右条項に基づき、これまで守衛やガードマンによつてその組合事務室を巡視しているのであるが、BSN労組が債務者と組合事務室貸借契約を締結した時には、債権者と債務者間の組合事務室貸借契約第五条は既に前記2(二)(3)の如く解釈され運用されていたのであるから、BSN労組と債務者との同一条項の解釈運用が債権者と債務者とのそれと異つたとしてもそれは債務者との信頼関係が異るところからくる組合の自主性独立性確保の対処の違いであつて、当然に本件契約書第五条がBSN労組と債務者間で解釈されているとおりに解釈すべきことにはならないから、本件契約書第五条の解釈を左右するものではないと言うべきである。
(三) 以上のとおり、債務者は本件契約書第五条に基づき、「建物の保全、衛生、防犯、防火、救護、その他の事由により緊急止むを得ざるとき」に限り本件事務室に立入り巡視する権限を有するものであるが、他面右の場合以外は本件事務室に立入れない不作為義務を債権者に負つているというべきである。
よつて、債権者は債務者に対し、本件契約書第五条に基づき、「建物の保全、衛生、防犯、防火、救護、その他の事由により緊急止むを得ざるとき」を除いて、本件事務室に立入り、または第三者をして立入らせてはならないことを求める権利があると解すべきである。
4 申請の原因第3項について
昭和四五年八月二五日午後九時二五分頃債務者の従業員で守衛をしている倉田弘が本件事務室に立入つていたのを債権者の執行委員である本間通夫が見つけたこと、債権者の執行委員長梨本智宏、右本間通夫及び新潟映画社労働組合の委員長佐藤信也が守衛室前で倉田守衛に対し右立入行為を追及したこと、その際倉田守衛が従前から防火防犯のため毎日組合事務室に立入つていたと言つていたこと、債務者は、同月三一日債権者に対し本件契約書第五条に基づき防火防犯等の目的で今後も本件事務室に立入る旨の言明をするとともに、前記梨本執行委員長及び本間執行委員に対し、「正当なる守衛の巡視業務にいいがかりをつけ、当該守衛を脅迫、つるしあげ、守衛業務を妨害した」との理由でいずれも出勤停止三日間の懲戒処分にしたこと、債務者は本件処分決定に大いに不服であつたが、本件仮処分決定を一応尊重していること、以上の事実は当事者間に争いがない。
<証拠>によれば、倉田守衛の本件立入行為は、防火防犯等で格別緊急事態が発生し、または発生のおそれが明らかに認められる場合には該当しないにもかかわらずなされていること、債権者と債務者の労使関係は昭和三六年頃から厳しい対立下にあることがそれぞれ疎明され、<証拠判断略>
右争いのない事実及び疎明事実並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件仮処分決定がなければ、債務者は本件契約書第五条を自己に有利に解釈して、緊急止むを得ない場合以外にも防火防犯等の名目で、今後本件事務室に守衛を立入らせること、かくては債権者が本件契約書第五条に違反する不法な立入行為を阻止もしくは追及すれば、正当なる守衛の巡視業務を妨害したとの名目で債権者の役員等が懲戒処分に付せられることになるほか、厳しい対立を続けている労使関係のもとにおいて、債権者が債務者の不法な立入行為を容認していたのでは使用者に対して秘密を保つべき書類、情報等が保管されている組合事務室の機能が著しく減殺されるとともに、使用者に対して自主的な組合活動をなし得ないおそれがあること、
以上の事実が疎明される。
右疎明事実によれば本件仮処分の必要があること明らかである。
5 以上の次第であるから、債権者が債務者に対し、本件契約書第五条に基づき、「建物の保全、衛生、防犯、防火、救護、その他の事由により緊急止むを得ざるとき」を除いて、本件事務室に立入り、または第三者をして立入らせてはならないことを求める権利を有することを仮に定め、「債務者は火災・盗難事件等の緊急事態が発生し、またはこれが発生のおそれがあると明らかに認められる場合を除いては、本件事務室に立入り、または第三者をして立入らしてはならない。」旨を命じた主文第一項の仮処分決定は相当であるのでこれを認可し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(山中紀行 大浜恵弘 馬淵勉)